【講師と演題】:宇田 信一郎氏
宇田さんはロンドンLSE ( London School of Economics and Political Science )会員で王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)会員であり、G7での官僚や学者間の討論に何度も参加してきた方です。G7での首脳の発表は、事前に官僚や学者達が日数をかけて討論してまとめ上げたものをメデイアの前で発表する。だから国際政治の裏表に詳しい方。
A 共産党の主張の論拠において問題があると言えるのは、これは何も共産党の主張に限った話ではありませんが、植民地と固有領土の区別や領有権と施政権の区別が不明確であるという点、そして何よりも、平時における領土の移転のみを認めて戦争の結果締結された講和条約における領土の移転を認めていないという点でしょう。従ってポーツマス条約による南樺太の獲得やサンフランシスコ平和条約による放棄が無視されたり単なる不公正で片づけられたりしているわけです。実際には樺太千島交換条約とポーツマス条約によって南樺太と千島列島が日本に移転し、内地延長によってそれらが日本の固有領土となり、そしてサンフランシスコ平和条約による施政権の放棄でそれらは対日分割占領の継続を前提に、ソ連或いはロシアが占領統治してきた形となります。おっしゃるように大西洋憲章に対するソ連の関わりはかなり微妙であり、むしろ固有領土の領有権の不可分や一体性を主張する論拠としては、ソ連も署名している国連憲章第2条4の領土保全の原則の方が適しているように思います。ハーグ陸戦条約第3款は占領統治のあり方に関するものですから、むしろ施政権の方に関わるものでしょうね。いずれにせよいわゆる北方四島は単なる分割占領における施政権の境界線の問題に過ぎず、領有権の境界線の問題ではなく、真の領土問題は北方四島の更に外側にこそ存在するという事実が国民に広く認識されるためには、共産党の主張も問題はありこそすれ一石を投じるものと言えるでしょう。ネットでの議論を見ている限り、南樺太や千島列島への言及も決して少なくなく、もしかしたら独立国家を自称する中華民国亡命政府が占領統治する台湾よりも、問題の本質という点では理解されやすいところがあるのかもしれませんね。
A おっしゃるように国連憲章は1945年10月24日発効であり、ソ連の北方領土占領よりも時系列では後になりますので、国連憲章そのものの効力というよりは、ポツダム宣言よりも前の1945年6月26日にソ連を含む連合国によって国連憲章の署名が行われ、連合国が既に領土保全の原則を国際法上の原則として認めていた事実を以て主張することになります(国連憲章の領土保全の原則は、大西洋憲章等で謳われた領土不拡大の原則から派生したものと考えられますので、それらの原則を作った連合国自ら政治的思惑で原則に反した矛盾を指摘することが出来ます)。効力という部分に着目して補強するならば、ハーグ陸戦条約第三款の「占領は主権を移転すべからず」の原則は領有権に関わっていますので、これを併せて論拠とするのが良いでしょう。単に占領を行って領有権を主張したソ連のみならず、そのソ連の行為を様々な宣言やら密約やらの形で容認した米国や英国等の責任も問われなければならないことは言うまでもありません。ポーツマス条約に基づく日本への南樺太の割譲は下関条約に基づく日本への台湾や澎湖諸島の割譲と同様、最終的に講和条約に基づく割譲が認められている以上は特段の問題は無かったと考えられます。ソ連による北方四島・千島列島・南樺太の占領はこれを日本からソ連への割譲の結果としての領有と解すべき法的根拠が存在せず、その占領もあくまでせいぜいサンフランシスコ平和条約に基づく日本によるこれら地域の施政権の放棄を前提としてのみ成立し得るものです。言い換えればサンフランシスコ平和条約上の対日継続分割占領の元締めである主たる占領国の米国の黙認が前提となっているのであり、その黙認が無ければ単なるロシアによる不法占拠となるのであって(これは北方四島が千島列島に含まれると仮定した場合の話であり、北方四島が千島列島に含まれないとする日本政府の立場に立つなら、ロシアによる北方四島の占領は元より不法占拠ということになります)、この点は中華民国亡命政府が占領する台湾についても同様です。本来は講和条約の締結によって一切の占領が終了しなければならず、講和後の固有領土への占領継続は侵略と変わりませんので、最終的には施政権が日本に返還されなければなりません。
A 不法占拠が長期化した場合の法的効果の有無については、内閣官房の「領土・主権対策企画調整室」のサイト内に、「韓国による『不法占拠』の長期化は国際法上いかなる法的効果も生じない」というコラムがあります(下のURL)。このコラムでは竹島について述べられていますが、結論としては、適時抗議や国際司法裁判所への付託の提案を続けている限り、不法占拠は合法化されません。どうぞご参考下さい。
https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/kenkyu/takeshima/chapter03_column_01-01.html
宇田さんはロンドンLSE ( London School of Economics and Political Science )会員で王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)会員であり、G7での官僚や学者間の討論に何度も参加してきた方です。G7での首脳の発表は、事前に官僚や学者達が日数をかけて討論してまとめ上げたものをメデイアの前で発表する。だから国際政治の裏表に詳しい方。
http://lseforum-jp.chobi.net/uda/cv.html
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